第三章「大切なものを守るために」
個人情報編 事件簿③
「かわいいから載せただけなのに。」
「見て見て❤こんなに大きくなりました!」
「今日は習い事の日。今日も頑張ってます✨」
「三連休は家族で○○へ行ってきました~!」
子どもの成長や、家族で過ごした楽しい時間。
写真を撮れば、誰かに見てもらいたくなることもあります。
かわいいから。
嬉しかったから。
大きくなった姿を、友達や家族にも見てもらいたかったから。
そこに悪意なんてありません。
むしろ、そこにあるのは、
子どもを大切に思う親の気持ちなのだと思います。
でも今回は、そんなお父さん、お母さんにこそ、少しだけ立ち止まって考えていただきたいお話です。
その写真の主人公は、誰でしょう。
『インフルエンサーのママを告発します』という児童書があります。
主人公は、インフルエンサーの母親を持つ小学生の女の子、ナム・ダルム。
ダルムが生まれてからの日常のほぼすべてを、母親はSNSに投稿してきました。
親にとっては、かわいい我が子の成長記録。
でもダルムは、周りの目を気にしながら、次第に「本当の自分」でいることが難しくなっていきます。
この本が投げかけているのは、
親だからといって、本人の同意なしに子どもの写真をSNSへ載せていいのだろうか。
という問いです。
作者のジェ・ソンウンさん自身も、以前は娘さんの写真をSNSに投稿していたそうです。
ところが娘さんが小学5~6年生になった頃、
自分の写真をSNSから消してほしい
という意思を伝えました。
作者はそこで、SNSに載せていたのは自分の写真ではなく、子どもの写真だったという当たり前のことに気づき、それがこの作品を書くきっかけの一つになったと語っています。
同じSNSでも、
投稿する親と、投稿される子どもでは、見えている景色が違うのかもしれません。
例えばですが――。
「○○ちゃんって、いつまでおねしょしてたの~?」
「○○君のこと好きなんだって?」
「まだパパと一緒にお風呂に入ってるんだって?」
そんな言葉を、
学校のお友達や、近所の人から突然言われたら。
子どもは、どう感じるでしょう。
自分から話した覚えなんてない。
でも、相手は知っている。
その情報を伝えたのが、
一番信頼しているはずのお父さんやお母さんだったとしたら――。
「かわいいから載せただけ。」
親にとっては、それだけだったかもしれません。
でも、その投稿に写っているのも、その投稿に書かれているのも、
子ども自身の情報です。
そして、もう一つ考えてほしいことがあります。
「毎週○曜日は、この習い事❤」
「学校が終わったら、いつもの公園へ。」
「今日も練習頑張りました!」
一つひとつを見れば、ごく普通の投稿です。
でも、それが毎週、毎月と続いていたらどうでしょう。
写真に写った場所。
投稿された曜日。
書かれている時間帯。
過去の投稿と組み合わせれば、
「この子は、毎週この曜日、この時間、この場所にいることが多い。」
そんな生活のパターンまで、見えてしまう可能性があります。
こども家庭庁も、子どもの写真や動画をSNSへ投稿する際の安全面について注意喚起しています。
成長記録として投稿した写真や動画であっても、本人や家族が望まない形で、知らない人に悪用されるケースがあるとして注意を呼びかけています。
ちょっと待って!
親が伝えたかったのは、
「今日も元気に頑張っています❤」
ただそれだけだったはずです。
でも、写真を見る人が受け取る情報は、
あなたが伝えようとしたことだけとは限りません。
家族旅行の写真も同じです。
「三連休は家族で○○へ行ってきました~❤」
楽しかった旅行の思い出。
防犯を考えて、旅行中には投稿せず、帰宅してから投稿する。
そんな工夫をしている方もいると思います。
もちろん、今いる場所をリアルタイムで知らせないことは大切です。
でも、それだけですべて安心とも限りません。
毎年GWには遠くへ旅行。
お盆には家族で帰省。
年末年始も実家で過ごしている。
そんな投稿が何年分も並んでいたら?
「この家族は、連休になると家を空けることが多い。」
そんな暮らしの規則性まで、見えてしまう可能性があります。
写真は一枚。でも、見る人は一枚だけを見るとは限りません。
今日の投稿には、習い事。
先月の投稿には、いつもの公園。
春には入学式。
夏には家族旅行。
お盆には帰省。
一つひとつは、ただの思い出です。
でも――。
投稿する側には「点」に見えている情報も、
見る側では「線」につなげられることがあります。
この子は、何歳くらいなのか。
どんな場所によく行くのか。
いつ頃そこにいるのか。
この家族は、いつ家を空けることが多いのか。
親が公開したかったのは、
家族の楽しい思い出。
公開するつもりなんてなかったのは、
家族の生活パターン。
「かわいいから」だけでは、決められない時代になりました。
ここで誤解してほしくないことがあります。
子どもの写真をSNSに載せること自体を、
「やめましょう」
と言いたいわけではありません。
家族や友人と成長を喜び合うことも、
大切な思い出を残すことも、素敵なことです。
実際に『インフルエンサーのママを告発します』の作者も、娘さんから意思を伝えられたあと、以前SNSに投稿していた写真の公開範囲を変更し、自分だけが見られる思い出として残していると話しています。
写真を残すことと、誰にでも見える場所に公開することは、同じではありません。
投稿ボタンを押す前に、一度だけ考えてみてください。
この写真から、何が分かるだろう。
そして、もう一つ。
この子が大きくなったとき、この投稿を見てどう思うだろう。
子どもにも、人に知られたくないことがあります。
それを決める権利は、親だけのものではないはずです。
🌸今回の「ちょっと待って!」
子どもの写真を投稿するとき。
家族旅行の写真を投稿するとき。
習い事や学校行事について書くとき。
ほんの数秒でいいので、投稿ボタンを押す前に、
ちょっと待って!
写真の中に、場所が分かるものはありませんか?
曜日や時間と組み合わせることで、いつもの行動が分かりませんか?
過去の投稿と合わせると、生活のパターンが見えてきませんか?
そして――
その投稿は、子ども本人が見ても困らない内容ですか?
思い出を隠すためではありません。
SNSは、離れている家族や友人にも、子どもの成長を見てもらえる便利な場所です。だから、怖がって全部やめる必要はありません。
でも、
「誰に見せたいのか」と
「誰からでも見えるのか」は、同じではありません。
公開範囲を考える。
写真に写っているものを確認する。
曜日や時間、場所を必要以上に書かない。
そして何より、
自分以外の人の情報を載せるときは、その人の気持ちも考える。
子どもがまだ小さく、自分で判断することが難しいのなら、なおさら大人が一度立ち止まる。
事件簿①では、
「これ、話して大丈夫?」
事件簿②では、
「これ、入力して大丈夫?」
そして今回は、
「これ、載せて大丈夫?」
かわいい我が子の写真を見ているあなたには、愛情しかないかもしれません。
でも、その写真を見るすべての人が、同じ気持ちで見ているとは限りません。
投稿する前に、ちょっと待って。
その数秒が、
大切な人の情報を守ることにつながるかもしれません。
📚この記事の参考資料
こども家庭庁
「こどもの写真や動画の投稿はここに注意!」
こども家庭庁の注意喚起
晶文社
ジェ・ソンウン『インフルエンサーのママを告発します』
晶文社・書籍紹介
好書好日(朝日新聞社)
著者ジェ・ソンウンさんインタビュー
著者インタビュー