第三章「大切なものを守るために」葬儀費用編
事件簿 3.
「同じ火葬場なのに、助成金がもらえない?」
―火葬料金の高騰から見えてきた、火葬場の知られざる事情―
🌸実際に起きた、火葬料金をめぐる異議申し立て

2026年3月16日。東京都足立区の区議会に、一件の陳情が受理されました。
問題となったのは、2026年4月から始まる火葬料金の新しい助成制度です。
火葬料金の負担を軽くするために設けられた制度なのに、利用する葬儀サービスによって助成を受けられる人と受けられない人がいる。
陳情者は、その公平性に疑問を投げかけました。
「同じ区民なのに、なぜ助成を受けられる人と受けられない人がいるのか?」
陳情では、助成対象の拡大と制度の見直しが求められました。
足立区議会の公開記録では、この陳情は「継続審査」とされています。
これは、架空のトラブルではありません。実際に議会へ提出された異議申し立てです。
では、なぜこのような問題が起きたのでしょうか。
🌸そもそも、火葬料金に何が起きた?
東京23区内で6か所の火葬場を運営する東京博善株式会社は、2026年3月末をもって、区民葬儀における火葬料金の割引を終了しました。
それまで、同社の普通炉の料金は90,000円。区民葬儀を利用した場合は59,600円でした。
2026年4月からは普通炉の一般料金を87,000円に引き下げる一方、区民葬儀の割引料金は廃止しました。
つまり、一般料金は3,000円の値下げですが、区民葬儀の割引はなくなります。
そこで東京23区は、対象となる区民葬儀利用者に対し、大人27,000円を上限とする新たな助成制度を設けました。
普通炉87,000円から27,000円が助成されれば、実質負担は60,000円です。
従来の区民葬儀料金59,600円との差は400円。

しかし、助成を受けられるかどうかには条件にあります。
🌸なぜ、助成制度に不満が出たのか
東京23区の新しい助成制度は、火葬場を利用すれば誰でも受けられるものではありません。
区民葬儀の祭壇券(棺のみの利用を含む)または霊柩車券を利用し、指定された民間火葬場で対象の火葬料金を支払うことなどが条件です。
例えば、区民葬儀の対象にならない葬儀社やサービスを選んだ場合、同じ火葬場でも助成を受けられないことがあります。足立区の陳情は、こうした選択の制約と公平性を問題視しています。
一方、東京博善は、従来の区民葬儀の割引について、利用できる葬儀社が限られていたことなどを公平性の課題として説明しています。
つまり、企業側も陳情者側も「公平性」を問題にしているのに、その考え方や求める解決策は異なっているのです。
🌸「区営火葬場を造ってほしい」という声も
2025年8月26日には、新宿区議会にも「区営火葬場の新設を求める陳情」が提出されました。
火葬料金の負担や、民間火葬場への依存を懸念し、行政が運営する火葬場の整備を求めるものです。
さらに東京都議会でも、火葬料金の設定基準が明確ではないという課題や、助成制度による公平性の問題が議論されています。
ここで見えてくるのは、単なる値上げへの不満ではありません。
火葬場を選びにくいこと。料金の決め方が分かりにくいこと。そして、負担を軽くする制度にも利用条件があること。
大切な人を見送る場面だからこそ、見過ごせない問題です。
🌸火葬料金5,000円と87,000円。その差はなぜ?
ここで、東京と名古屋を比べてみましょう。
名古屋市が運営する市営斎場では、大人の火葬料金は名古屋市民なら5,000円、市民以外なら70,000円です。
一方、東京博善の普通炉は87,000円。
名古屋市民向けの料金との差は、82,000円にもなります。
ただし、この数字だけで民間火葬場が高すぎると判断することはできません。
名古屋市の斎場は公営施設であり、施設の整備や維持管理には公費が関わっています。
5,000円という料金は、火葬に必要な費用の総額ではないのです。
実際、東京にも公営火葬場があります。
東京都の瑞江葬儀所では都民の大人の火葬料金が59,600円。臨海斎場では、共同運営する5区の住民は44,000円です。
公営と民営、さらに居住地による料金区分の違いがあるため、同じ条件での単純比較ではありません。
それでも、利用者にとって大きな料金差が存在することは事実です。
なぜ地域によってこれほど負担が違うのでしょうか。
🌸名古屋にも、火葬料金の補助制度がある

名古屋市では、八事斎場の再整備に伴い、2025年4月から2028年5月末まで火葬業務を停止しています。
その間は第二斎場を中心に対応していますが、予約が取れず、市外の火葬場を利用する場合も想定されています。
そこで名古屋市は、一定の条件を満たした場合、愛知県内の市外火葬場で支払った管外火葬料金の半額を補助しています。
例えば、対象となる市外火葬場で50,000円の管外料金を支払った場合、補助額は25,000円です。
ただし、亡くなった方が名古屋市民であること、第二斎場の予約ができなかったことを示す証明書があることなど、複数の条件があります。
申請期限も、原則として火葬した日の翌月末日です。
東京とは目的も条件も異なる補助制度です。
なお、名古屋市では、国民健康保険の加入者が亡くなった場合、世帯主または葬祭執行者に葬祭費として50,000円が支給されます。
また、75歳以上の方などが加入する後期高齢者医療制度でも、葬祭を行った方に50,000円が支給されます。
いずれも低所得者や生活保護受給者だけを対象とした制度ではありません。ただし、加入していた健康保険や申請条件によって扱いが異なります。
葬祭費は火葬料金の補助とは別の給付です。
🌸「燃料費が上がったから」は、本当?
火葬には燃料が必要です。
それだけではありません。火葬炉の維持管理、人件費、施設の修繕、安全対策にも費用がかかります。
東京博善は、燃料費や人件費、火葬炉の修繕に必要な資材などの高騰を、料金改定の理由として説明しています。
また、将来の大規模修繕に備える資金も必要だとしています。
費用の上昇は料金に影響します。ただ、利用者が知りたいのは、何にどれだけ費用がかかり、料金にどう反映されたのかという点でしょう。
🌸決算書を開いてみたら……
そこで、東京博善の親会社である広済堂ホールディングスの公表資料を確認してみました。
東京博善が公表する2026年3月期の火葬事業の収支では、売上高は約54億3,900万円、収益は約11億9,800万円となっています。
前年度と比較すると、売上高も収益も減少していますが、約12億円の収益が計上されています。
では、その収益は何に使われているのでしょうか。
東京博善の説明によると、2026年3月期には法人税等として約3億7,000万円、火葬炉の特別修繕積立金として7億5,000万円を計上しています。
さらに、火葬事業の収益は親会社への配当にしていないと説明しています。
ただし、積立金の管理方法や将来の使途の全容までは、公表された収支表だけでは判断できません。
利益が出ていること自体が問題なのではありません。
公共性の高い事業だからこそ、料金と利益の関係を、利用者にも分かりやすく説明することが大切なのではないでしょうか。
🌸そして、株主名簿を見てみると……
ここで、もう少しだけ企業の仕組みを見てみましょう。
東京博善の親会社、広済堂ホールディングスは上場企業です。

……あら?
なんやら、見たことのある感じの名字が出てきていますが……(笑)

もちろん、名前だけで何かを判断することはできません。
ただし、株主であることと、火葬料金の決定に直接関与することは別です。
そこで、もう一つ気になる説明がありました。
🌸「親会社の指示による値上げではない」
東京博善は公式サイトで、過去の料金改定について、親会社の指示による値上げではないと説明しています。
では、その料金は誰が提案し、どのような基準で決め、誰が承認しているのでしょうか。
親会社が直接指示していないことと、企業グループの経営方針が子会社に影響しないことは同義ではありません。ただし、不適切な介入を示す資料も確認できていません。
だからこそ、憶測ではなく、料金決定の仕組みそのものを知りたいのです。
東京都と特別区長会も、民間火葬場の経営管理について国へ要望を行っています。
これは、火葬場の公共性と民間経営のあり方が、行政にとっても検討すべき課題になっていることを示しています。
🌸火葬場は、自由に選べるもの?
買い物なら値段を比べて店を変えられますが、火葬場はそう簡単ではありません。予約状況、移動距離、葬儀の日程に制約があり、待機が延びれば安置費用が増える場合もあります。
民営であることが悪いのではありません。公営なら何も問題がない、ということでもありません。
大切なのは、遺族が安心して利用できる料金と仕組みになっているかどうか。
その一点ではないでしょうか。
🌸大切な人を守るために、今できること
もし、葬儀費用を事前に調べる機会があれば、火葬料金だけでなく、次の点も確認してみてください。
- 火葬料金は葬儀プランに含まれているか
- 利用する火葬場は公営か民営か
- 居住地によって料金が変わるか
- 火葬待ちによる安置料・搬送料の追加はあるか
- 自治体の助成制度や健康保険の葬祭費を利用できるか
- 助成を受けるために、葬儀社や葬儀内容に条件があるか
助成制度は、存在を知るだけでなく利用条件まで確認することが大切です。
🌸今回のまとめ
火葬料金は、地域や施設の運営方法によって大きく異なります。
東京23区では、料金改定をきっかけに新たな助成制度が設けられ、その公平性について実際に陳情が提出されました。
料金の違いだけでなく、助成を受けるための条件まで知っておくことが、大切な人を守る準備につながります。
🌸編集後記
今回、火葬料金の違いを調べ始めたところ、住民の陳情、自治体の助成制度、上場企業の決算書、そして株主名簿まで確認することになりました。
正直、ここまで調べることになるとは思っていませんでした。(笑)
そして、途中の株主名簿では、思わず二度見したくなる名前もありましたが……。
大切なのは、名前の印象や噂ではなく、確認できる事実を一つずつ積み重ねること。
そして、調べれば調べるほど感じるのです。
大切な人を亡くした直後に、冷静に料金を比較し、助成制度の条件まで調べられる人は、どれほどいるのでしょう。
だからこそ、元気なうちに知っておく。
それも、大切な人を守る準備の一つだと思います。
📚情報源・参考資料
本記事は、自治体・議会の公表資料、火葬場運営会社の公式資料、上場企業のIR情報をもとに構成しています。
【実際に提出された陳情・行政の対応】
① 足立区議会「区民の平等性を著しく欠く『区民葬儀における新たな助成制度』に関する陳情」
https://www.gikai-adachi.jp/g07_SeiganView.asp?SrchID=709
【裏付ける内容】
2026年3月16日に受理された陳情(受理番号08-2)。新たな火葬料金助成制度の対象が限定されることについて、公平性の観点から改善を求めた事実。公開記録上の審査結果は「継続審査」。
② 新宿区議会「区営火葬場の新設を求める陳情」
https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000438766.pdf
【裏付ける内容】
2025年8月26日に受理された陳情(7陳情第18号)。東京博善の区民葬儀割引終了に伴う負担増への懸念、区営火葬場の新設を求める住民の問題提起。
③ 特別区長会「火葬場について」
https://www.tokyo23city-kuchokai.jp/katsudo/kasou.html
【裏付ける内容】
2026年4月からの23区共通の火葬料金助成制度、大人27,000円・小人15,000円の助成限度額、民間火葬場の経営管理に関する東京都・特別区長会の要望。
④ 足立区「区民葬儀における火葬料金の助成制度について」
https://www.city.adachi.tokyo.jp/koseki/kuminsougi2025.html
【裏付ける内容】
助成を受けるための具体的な条件。区民葬儀の祭壇または霊柩車の利用、対象火葬場、対象者、申請手続き。
【火葬料金・運営会社の説明】
⑤ 東京博善「区民葬の取扱い終了について」
https://www.tokyohakuzen.co.jp/company/cremation/kuminso/
【裏付ける内容】
2026年3月末の区民葬儀割引終了、普通炉一般料金90,000円から87,000円への改定、従来の区民葬儀料金59,600円、割引終了についての企業側の説明。
⑥ 東京博善「火葬事業」
https://www.tokyohakuzen.co.jp/company/cremation/
【裏付ける内容】
火葬料金の設定理由、燃料費・人件費・修繕費などの説明、2026年3月期の火葬事業収支、法人税等、特別修繕積立金、親会社の指示による値上げではないとする企業側の説明。
⑦ 広済堂ホールディングス「株式の状況」
https://www.kosaido.co.jp/ir/equity/stocks
【裏付ける内容】
広済堂ホールディングスの株式情報を確認するための公式IRページ。
※本文に掲載する2026年3月31日時点の大株主名・持株比率については、同日を基準とする有価証券報告書等との照合が必要です。
【名古屋市の火葬料金・補助制度】
⑧ 名古屋市「市立斎場の使用料金」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/shisetsu/1016323/1016324/1016325.html
【裏付ける内容】
大人の火葬料金が名古屋市民5,000円、市民以外70,000円であること。生活保護受給者などに対する市立斎場の火葬料金免除制度。
⑨ 名古屋市「八事斎場再整備」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/shisetsu/1016323/1016324/1016328.html
【裏付ける内容】
八事斎場の人体火葬休止期間(2025年4月から2028年5月まで)、2028年6月の供用再開予定、第二斎場での対応と火葬待ち対策。
⑩ 名古屋市「市外火葬場利用料金補助制度」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/shisetsu/1016323/1016324/1033652.html
【裏付ける内容】
第二斎場の予約ができず、所定の条件を満たして愛知県内の市外火葬場を利用した場合の補助制度。管外火葬料金の半額、予約不能証明書、原則として火葬翌月末までの申請期限。
【葬祭費・健康保険制度】
⑪ 名古屋市「国民健康保険における葬祭費の支給申請」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/hoken/1011736/1011815/1034707/1033733.html
【裏付ける内容】
名古屋市の国民健康保険加入者が亡くなった場合の葬祭費50,000円。支給対象者、申請方法、他の健康保険から同種の給付を受けた場合などの注意事項。
⑫ 名古屋市「療養費などの支給内容(後期高齢者医療制度)」
https://www.city.nagoya.jp/kurashi/hoken/1016449/1034710/1016450.html
【裏付ける内容】
後期高齢者医療制度の被保険者が亡くなった場合、葬祭を行った方に50,000円が支給されること。必要書類と申請方法。
※本記事は、2026年10月時点で確認できた公表資料・情報をもとに作成しています。料金や助成制度、企業の公表内容などは、今後変更される場合があります。実際に利用される際は、各自治体・施設の最新情報をご確認ください。