Kotonoha 言の葉だより 第三章「大切なものを守るために」訪問購入編

第三章「大切なものを守るために」訪問購入編

事件簿 1.

「不用品を売るだけだったのに。」

「いらなくなったお皿や洋服、ありませんか?」
そんな電話がかかってきたら、あなたならどうしますか?

ちょうど家の中を片づけていた。捨てるのももったいないし、誰かに使ってもらえるなら、その方がいい。
「それなら、お願いしようかしら。」
始まりは、そんな何気ない会話かもしれません。

ところが――。

全国の消費生活センターなどには、
「不用品を売るだけのつもりだったのに、貴金属など別の物の買い取りを求められた」
という訪問購入に関する相談が、今も寄せられています。


「訪問購入」って何?

訪問購入とは、購入業者が自宅などを訪れ、消費者から品物を買い取る取引のこと。
いわゆる「出張買取」なども、これにあたる場合があります。
もちろん、訪問購入そのものが悪いわけではありません。
自宅まで来てもらえる便利なサービスでもあります。

では、なぜ注意が必要なのでしょう?
まずは、実際の数字を見てみましょう。


相談件数は、年間7,000件以上

国民生活センターによると、訪問購入に関する相談は、
2023年度 8,623件
2024年度 7,909件
2025年度 7,523件
そして2026年度も、
5月末時点で826件
が登録されています。
※2026年度は年度途中の数字ですので、過去3年度の年間件数とは単純比較できません。


📊グラフで見てみましょう

【2023年度~2025年度 訪問購入に関する相談件数グラフ】

グラフを見ると、相談件数は少しずつ減っています。
2023年度から2025年度までで、約13%の減少です。
ただし、
相談件数が減った理由を、この数字だけから判断することはできません。
そして2025年度も、7,523件。
単純平均すると、全国の消費生活センターなどに寄せられた相談だけでも、1日あたり約20件です。
「減っていること」と、「もう安心していいこと」は、同じではありません。

大切なのは、今、どんなことが起きているのかを知ること。
ここから、実際の相談事例を見てみましょう。


「人の役に立つなら」と思ったのに。

国民生活センターが公表した相談事例の中には、こんなものがあります。

「不用品を買い取り、貧しい国に寄付する」
という勧誘を受け、
「人の役に立つなら」
と思って訪問を了承した。
ところが、業者が帰ったあと、指輪がなくなっていた。
ほかにも、
・金のネックレスやダイヤの指輪などがなくなっていた。
・身につけていた母親の形見の指輪を強く要求された。
・一人暮らしの母親が、記念硬貨を安い価格で買い取られていた。
そんな相談が寄せられています。

国民生活センターは、こうしたケースを「犯罪まがいの深刻なトラブル」として注意を呼びかけています。

ここで、一緒に考えてみましょう。

最初から、
「貴金属を出してください」
と言われたわけではありません。
入口は、
「不用品はありませんか?」
時には、
「誰かの役に立ちますよ」
という言葉から始まります。
人の善意が、断りにくくするきっかけになることもあるのです。


「私は貴金属なんて売らないから大丈夫。」

そう思いました?
ちょっと待って!
実際の相談には、
「古本を買い取る」
という電話をきっかけに訪問を依頼し、結果として貴金属を安く買い取られたケースもあります。

つまり、
「宝石を売る人だけの話」ではありません。

古本。洋服。食器。

そんな身近な物を片づけたい。そこから始まることもあります。


そして、こんな「あるある」にも要注意。

問題になるのは、相手から強く求められたときだけではありません。

ここからは、公表された一つの相談事例を再現したものではありません。
私たち自身の行動について、ちょっと考えてみましょう。

「せっかく来てもらったんだし……」
「またお願いするのも面倒だしねぇ」
「そういえば、あれもどこかにあったような……」
家の中をごそごそ。
「あった、あった!これよこれ!」
「これも買い取ってもらえるかしら?」
……。

お母さん、ちょっと待って!🤣

これ、相手に無理やり出さされたわけではありません。
自分から出してます。🤣
でも、
「せっかくだから」
「また来てもらうのも悪いから」
「もう一度頼むのは面倒だから」
そんな気持ちは、誰にでも起こり得ます。
だからこそ、訪問してもらう前に、

「今日は何を売るのか」を決めておく。

そして、

決めていなかった物は、その日は出さない。

「あ、これも売ろうかな?」
と思ったら、一晩考えてもいい。
家族に聞いてもいい。
もう一度呼ぶのが面倒なら、売らなくてもいい。

相手は仕事として来ています。
「せっかく来てもらったから」と気を遣って、大切な物まで手放す必要はありません。


🌸今回の「ちょっと待って!」

今回、覚えておいてほしいことです。
自分から依頼していない買取業者から突然電話がかかってきたら、その場で話を進めない。
訪問をお願いするときは、
「今日は何を売るのか」を先に決めておく。
そして、
売るつもりのなかった物は、その日は出さない。
「せっかくだから」
「また呼ぶのも面倒だから」
「ついでにこれも」
そう思ったときこそ――

本当に、ちょっと待って!

その物は、今日、売ろうと決めていた物ですか?

今日決めなくてもいい。
家族に相談してからでもいい。
そして、
「なんか変だな」
と思った自分の感覚を、無視しないでください。


「やっぱりやめます」と言っていい。

訪問購入には、法律で定められたルールがあります。
たとえば、消費者が契約しない意思を示したあとに、業者がその場で勧誘を続けたり、再び勧誘したりすることは禁止されています。
実際に2026年8月には、訪問購入業者に対して、9か月間の業務停止命令が出されています。
この行政処分では、勧誘を頼んでいない人への勧誘や、契約しない意思を示した人への勧誘、勧誘を受ける意思を確認しないまま勧誘したことのほか、書面の交付や、品物の引渡しを拒めることについての告知など、複数の違反行為が認定されています。

つまり、
「断ったのに勧誘を続けられた」
「頼んでいない物まで売るよう求められた」

そんなときに、
「私が断りきれなかったから……」
と、自分を責める必要はありません。

また、訪問購入では原則として、法律で定められた書面を受け取った日から8日以内であればクーリング・オフができます。

※クーリング・オフとは
契約したあとでも、一定の条件を満たしていれば、決められた期間内に申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度です。
すべての契約で利用できるわけではありません。

訪問購入では、この期間中、売ることにした品物を業者へすぐに渡さず、手元に置いておくこともできます。

だから、
「もう売るって言っちゃったし……」
「今さら断るのも悪いし……」
と、一人で諦めないでください。

困ったときや、どうしたらいいか分からないときは、
消費者ホットライン「188(いやや!)」
へ相談することもできます。


物を手放すことは、自分で決めていい。

第二章「思い出の重さ」では、
何を残すのか。何を手放すのか。そんなお話をしました。

物を整理することが、悪いわけではありません。
買取サービスそのものが、悪いわけでもありません。
誰かの力を借りることも、悪いことではありません。

でも、
何を手放すのかを決めるのは、あなたです。

「やっぱりやめます」と言ってもいい。今日決めなくてもいい。
誰かに急かされて決める必要もありません。
あなたの物だから、あなたが決めていい。

ほんの数秒でも、
「ちょっと待って。」
と立ち止まる。

その数秒が、あなたの大切なものを守ることにつながるかもしれません。


📚この記事の参考資

国民生活センター「訪問購入」
訪問購入に関する相談件数や、最近の相談事例が掲載されています。
国民生活センター「訪問購入」

国民生活センター「きっかけは訪問購入?犯罪まがいの深刻なトラブルにご注意を!」
2024年9月18日公表。貴金属の持ち去りや、強引に買取りを求められた事例などが紹介されています。
国民生活センターの注意喚起資料

消費者庁・特定商取引法ガイド「訪問購入」
訪問購入における勧誘のルール、クーリング・オフ、物品の引渡しを拒むことができる制度などが確認できます。
特定商取引法ガイド「訪問購入」

特定商取引法ガイド「本年度の執行状況」
2026年8月4日、訪問購入業者の株式会社R-groupに対し、九州経済産業局が9か月間の業務停止命令を行っています。勧誘を要請していない人への勧誘や、契約しない意思を示した人への勧誘、書面交付義務などに関する複数の違反行為が確認されています。
特定商取引法ガイド「本年度の執行状況」