第三章「大切なものを守るために」特別編
― 私たちは、次の世代に何を伝えられるだろう ―
黒電話が当たり前だった時代がありました。
それが、外へ持ち歩ける大きなショルダー型の携帯電話になり、PHSが登場し、小さなガラケーになり、今ではスマートフォン。
振り返ってみれば、ほんの数十年の出来事です。
電話ひとつを見ても、私たちの「当たり前」は大きく変わりました。
そして今。
SNSで世界中の人とつながり、知りたいことはその場で検索できる。
写真や動画を誰でも発信できる。
さらに生成AIの登場によって、文章だけでなく、画像や動画まで簡単に作れるようになりました。
これから先も、私たちが想像もしていないものが次々と生まれてくるでしょう。
常識は、時代とともに変わっていくものです。
では、
変わってはいけないものは何でしょう。
私は、
「道徳」だと思っています。
人を騙してはいけない。
人を傷つけてはいけない。
自分の利益のために、誰かの弱さにつけ込んではいけない。
自分が面白ければ、誰かが傷ついても構わないわけではない。
そんなことは、スマートフォンがなかった時代にも教えられてきたことです。
使う道具が変わっても、
人として「それをやったらダメだよ」ということまで、変わっていいわけではありません。
「最近の子は……」
子どもが一日中スマートフォンを見ている。
SNSに何でも載せる。
動画で見た情報を信じる。
AIを当たり前のように使う。
そんな姿を見て、
「最近の子は……。」
そう言いたくなる大人もいるかもしれません。
でも、その言葉だけで終わらせてしまっていいのでしょうか。
そのスマートフォンを渡したのは、大人です。
インターネットにつながる環境を用意したのも、大人です。
そして、便利なものをつくり、使い、社会の中に広げてきたのも、私たち大人です。
それなのに、
「SNSはやらないから分からない。」
「AIなんて知らない。」
「今の子たちのことは分からない。」
そう言って、大人だけが降りてしまったら、
子どもたちは一体、その奥に潜む危険を、誰から学べばいいのでしょう。
子どもの方が詳しくたっていい
新しいアプリの使い方なら、子どもの方が詳しいかもしれません。
スマートフォンの便利な機能を、逆に教えてもらうことだってあるでしょう。
それでいいと思います。
大人が何でも知っている必要なんてありません。
でも、
使えることと、正しく使えることは違います。
AIで本物そっくりの画像や動画を作れる。
だからといって、誰かを騙すために使っていいわけではありません。
SNSで誰かの情報を見つけられる。
だからといって、その人が知られたくないことまで探し出していいわけではありません。
誰かの失敗を撮影できる。
だからといって、それを面白がって世界中へ拡散していいわけではありません。
「できる」と「やっていい」は、同じではない。
その違いを教えるために、あなたが最新のスマートフォンを使いこなせる必要はありません。
必要なのは、
「それをされた人は、どう思うだろう。」
と考えることです。
AIに聞ける時代だからこそ
今では、分からないことや悩み事を、人に相談する前にAIへ聞くこともできるようになりました。
それは子どもだけではありません。
私たち大人だって、誰かに聞く前に検索したり、AIに相談したりすることがあります。
それ自体が悪いことだとは思いません。
分からないことを調べる。
考えを整理する。
誰にも言えなかったことを、まず言葉にしてみる。
AIがその手助けをしてくれることもあります。
でも――
AIに相談できる時代だからこそ、人と話すことまで手放さないでほしい。
自分の考えに、
「それは違うんじゃない?」
と真正面から言ってくれる人はいますか。
聞きたくなかったことを言われて、腹が立つこともあるでしょう。
「分かってくれない」と思うこともあるでしょう。
その人の言うことが、必ず正しいとは限りません。
それでも、
自分とは違う考えに触れることそのものに、意味があることがあります。
自分にとって心地よい情報だけ。
自分と同じ考えだけ。
自分が欲しかった答えだけ。
そればかりを選んでいたら、いつの間にか、自分とは違う考えに触れる機会そのものを失ってしまうかもしれません。
AIを使うことと、人との関わりを手放すことを、同じにしない。
人から人へ伝えなければならないことまで、AI任せにしてはいけないのだと思います。
大切なのは、叱り方ではなく、見て見ぬふりをしないこと。
子どもに何かを伝える方法に、ひとつの正解があるわけではありません。
やさしく話せば伝わることもあります。
時間をかけて、一緒に考えた方がいいこともあります。
でも、誰かの命に関わることや、人を深く傷つけるようなことまで、いつも穏やかに諭せばいいとは、私は思いません。
ときには、大人が本気で
「危ない!」
「やめなさい!」
「それは絶対にしてはいけない!」
と止めなければならない場面もあります。
伝え方は、時代によって変わっていく。
その子や、その場面によっても変わっていい。
でも、伝え方を変えることと、
大人が伝えることをやめることは違います。
子どもを守りたいと思う大人まで、黙らなくていい。
ただ、
大人が「伝える側」でいるためには、大人自身も知ろうとし続けなければなりません。
スマートフォンも、SNSも、AIも。
子どもたちが生きている世界は、私たちが子どもだった頃とは大きく変わっています。
知らないことまで、知ったふりをして教える必要はありません。
学校の宿題や勉強を手伝おうと、一緒に教科書を開いた経験のある親御さんもいらっしゃると思います。
そう、その時のように。
分からないなら、一緒に調べればいい。
知らないなら、一緒に知ればいい。
知らないなら、一緒に知ればいい
今の社会で起きていることを、大人が全部知っているわけではありません。
SNSも変わります。
犯罪の手口も変わります。
AIも進化します。
本物なのか偽物なのか、一目では分からないものもあります。
実際、文部科学省でも、生成AIが出した情報には誤りが含まれる可能性があることや、ほかの信頼できる情報と比較すること、SNS上の偽・誤情報やディープフェイクなどについて考える教材が使われています。文部科学省
だから、知らないことそのものを、恥ずかしがる必要はありません。
昔から、
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」
という言葉があります。
知らないなら、知ればいい。
分からないなら、調べればいい。
そして、子どもに教えてもらったっていい。
「これ、どうやって使うの?」
そこから始まる会話だってあります。
こども家庭庁も、子どものネット利用について、一方的な禁止だけではなく、家庭でルールについて話し合い、成長に合わせて見直していくことを呼びかけています。CfA Japan
大切なのは、
「知らないから、私には関係ない。」
で終わらせないことです。
「最近の子は」と言う、その前に
私たちは時々、若い世代をひとくくりにしてしまいます。
「最近の子は……。」
でも、もしかしたら子どもたちも、
「大人って、みんな……」
なんて話しているのかもしれませんね(笑)。
お互いさまなのかもしれません。
だから、その続きを言う前に、一度考えてみたいのです。
私たち大人は、その子たちに何を伝えてきたでしょう。
子どもたちが生きているのは、私たちとは違う世界ではありません。
私たちが一緒に生きている、今の社会です。
そして、子どもたちがネットを安全に使える環境をつくることは、家庭だけに任された話でもありません。
法律でも、保護者には子どもの利用状況を把握し、適切な利用を促す役割が示される一方、事業者や社会にも、それぞれの役割が求められています。
だから、
学校だけに任せない。
親だけに任せない。
子ども本人だけに任せない。
そして、
AIだけにも任せない。
今の社会で何が起きているのかを、大人も知っていく。
自分自身を守るために。
大切な人を守るために。
「温故知新」という言葉があります。
時代とともに生まれる新しいものを知ること。
そして同時に、これまで大切にされてきたものを、もう一度見つめること。
SNSやAIがどれだけ進化しても、
人は、人と関わりながら生きていきます。
誰かの話を聞くこと。
相手の気持ちを考えること。
困っている人に声をかけること。
そして時には、誰かを守るために、
「それは違う」
「それはやってはいけない」
と、本気で伝えること。
新しいことは、子どもたちから教えてもらったっていい。
大人も一緒に学んでいけばいい。
そして、私たち大人がこれまで人との関わりの中で学んできたことも、次の世代へ伝えていく。
新しいものを学びながら、人として大切なものを、次の世代へつないでいく。
それもまた、今を生きる私たち大人にできることなのではないでしょうか。
大切なものを守るために
第三章では、これからも社会の中にあるさまざまな危険やトラブルを取り上げていきます。
少し怖い話もあると思います。耳の痛くなるような話も出てくると思います。
でも、怖がってもらうために書いているのではありません。
「そんなことが起きているんだ。」
まずは、知ることからはじめてみませんか。
知っていれば、自分自身を守ることができるかもしれない。
そして、大切な誰かに伝えることもできるかもしれない。
大人が子どもに残せるものは、お金や物だけではありません。
常識は、時代とともに変わっていく。
でも、人として大切なことまで変えてはいけない。
新しいものを恐れるのではなく、大人も一緒に学びながら、それでも変えてはいけないものを、人から人へ。
私たちは、次の世代に何を伝えられるだろう。
そんなことを考えながら、ここから先も、
「大切なものを守るために」
今の社会で起きていることを、一緒に見ていきたいと思います。
📚この記事の参考資料
こども家庭庁「青少年のインターネット利用環境実態調査」
10~17歳の青少年と保護者などを対象に、利用状況、安全対策、啓発・学習状況等を継続調査。令和7年度から調査項目に生成AIも追加されている。CfA Japan
青少年のインターネット利用環境実態調査
こども家庭庁「青少年インターネット環境整備法 関係法令条文解説」
保護者について、利用状況の把握や適切な管理だけでなく、子どもがインターネットを適切に活用する能力を身につけられるよう促す役割が示されている。CfA Japan
青少年インターネット環境整備法 関係法令条文解説
こども家庭庁「毎日ネットに触れるこどもたちを守るために」等 保護者向け資料
家庭でのルールづくり、安全設定、相談先などを保護者向けに解説。CfA Japan
こども家庭庁 普及啓発リーフレット集
文部科学省「情報モラル教育ポータルサイト」
生成AIの回答には誤りが含まれ得ること、ほかの信頼できる情報との比較、SNSの偽・誤情報、ディープフェイク、ファクトチェックなどを扱う教材が公開されている。文部科学省
文部科学省「生成AIを使うときに、どんなことに注意する必要があるかを考えよう」
文部科学省「情報の真偽を確かめよう!~SNS 闇バイト編~」
警察庁「令和7年における少年非行及び子供の性被害の状況」
SNSを通じて面識のない相手と知り合ったことをきっかけとする子どもの被害について、継続的に統計が公表されている。令和7年の重要犯罪等の被害児童は598人とされている。なお、罪名の変更等があるため、過去年との単純比較には注意が必要。警察庁
警察庁資料― 私たちは、次の世代に何を伝えられるだろう ―