Kotonoha 言の葉だより 第三章「大切なものを守るために」訪問購入編

第三章「大切なものを守るために」訪問購入編

事件簿 2.

「返してほしい」と言ったのに。

― 売ったあとでも、やめられる。でも品物は? ―

「やっぱり、あの指輪だけは返してほしい。」
そう思って業者に電話をかけた女性。
ところが、返ってきたのは思いもよらない言葉でした。
「もう別の業者に渡してしまいました。」

今回は、国民生活センターに寄せられた実際の相談をもとに、一度売ってしまった品物を取り戻すことはできるのか? という問題を考えていきます。

不用品を売るだけのつもりだった

2017年、60代の女性から寄せられた相談です。

ある日、「不用品の買い取りキャンペーンをやっている」という女性が突然訪ねてきました。
すぐには用意できないと伝えると、「1時間後に来るので用意しておくように」と言われます。

そして1時間後、今度は男性が訪問してきました。
女性が用意したのは、いらなくなった洋服やバッグなど。
ところが業者は、「壊れた宝飾品もありませんか」と尋ねてきました。
女性は指輪やネックレス、ブレスレットなども出し、合わせて25,000円で売却しました。

しかし、後になって後悔します。
売ってしまった中には、大切な形見の指輪もあったのです。
しかも、高価な宝飾品を何点も出したのに、25,000円では安すぎたのではないかという思いもありました。
女性は業者に電話し、買い戻したいと伝えました。

ところが、業者からは「物品は別の業者に手渡してしまった」と言われてしまいます。
さらに、この女性には契約書が渡されておらず、受け取ったのは業者の名刺だけでした。
女性は、大切な宝飾品をすべて返してほしいと相談しています。

※ここまでが国民生活センターの公表した相談内容です。その後、品物が返還されたかどうかは公表資料からは分かりません。


「売ったんだから仕方ない」……本当に?

ここで知っておいてほしいのが、クーリング・オフという制度です。
これは、一定の条件に当てはまる契約について、あとから「やっぱりやめます」と解除できる仕組みです。
法律の対象となる訪問購入では、原則として、法律で定められた契約書面を受け取った日から数えて8日以内なら、クーリング・オフができます。

例えば、月曜日に正しい契約書面を受け取ったなら、その月曜日を1日目として、翌週の月曜日が8日目になります。
ただし、すべての出張買取が対象になるわけではありません。品物の種類や取引の状況によって例外があります。
また、今回の女性は「買い戻したい」と電話で伝えていますが、法律上のクーリング・オフを申し出たかどうかは、相談内容からは分かりません。

ここは区別して考える必要があります。


「もう転売しました」で終わりなの?

少し難しいお話ですが、先ほどの実例をもとに、かみ砕いて説明していきます。
ここからは、法律の仕組みを分かりやすくするための仮定のお話です。

先ほどの女性が指輪を売った相手を「訪問購入業者A」としましょう。
業者Aは、その指輪を別の宝石店Bに売ってしまいました。

その後、女性が「やっぱり売るのをやめます」と、法律に従ってクーリング・オフしたとします。

さて、この場合、指輪は返してもらえるのでしょうか?

実は、ここで問題になるのが、宝石店Bの立場です。
宝石店Bが、クーリング・オフされる可能性のある指輪だと知って買った場合。
そして、そうした事情を知らず、知らなかったことにも落ち度がなかった場合。
この2つでは、法律上の扱いが違うことがあります。

例えば、宝石店Bが事情を知らず、知らなかったことにも落ち度がなければ、女性がクーリング・オフしても、宝石店Bに指輪を返すよう求められない場合があります。

つまり、
「売った契約をやめられること」と「同じ指輪が必ず戻ってくること」は、別の問題なのです。

「えっ? じゃあ、業者が転売してしまったら泣き寝入りなの?」

そう思うかもしれません。でも、そうとは限りません。
法律では、クーリング・オフ期間中に業者が品物を第三者へ引き渡す場合、その第三者に対して、クーリング・オフされる可能性がある品物だと書面で知らせる義務なども定めています。

ですから、「もう転売したから無理です」という業者の一言だけで、諦める必要はありません。
返還を求められるかどうかは、実際の事情を確認する必要があります。

そもそも、ちゃんとした業者であれば、「もう転売したから無理です」の一言で終わらせず、品物がどうなっているのか、返してもらう方法はないのか、きちんと調べてくれると思うのですが……。


実は、すぐに渡さなくてもいいんです!

ここが、今回いちばん覚えてほしいところ。

法律の対象となる訪問購入では、クーリング・オフができる期間中、品物を業者に渡さず、自分の手元に置いておくことができます。
例えば、指輪を売る契約をしたとしても、対象となる取引なら、その場ですぐに指輪まで渡す必要はありません。

「本当に売ってよかったのかな?」
「家族に一度相談したいな」

そう思ったら、考える時間を残しておけるのです。
もちろん、品物をまだ渡していなければ、代金の支払いも待つことになる場合があります。
でも、大切なのは、迷いが残っている品物を、その場の流れだけで手放さないこと。
一度手元から離れた品物は、契約を解除できたとしても、取り戻すのが難しくなることがあるからです。


契約書は、ただの紙ではありません

今回の相談では、女性に契約書が渡されていませんでした。
法律の対象となる訪問購入では、業者には、定められた事項を記載した契約書面を交付する義務があります。
・何を、いくつ、いくらで売ったのか。
・買い取った業者はどこなのか。
・クーリング・オフについて、どんな説明が書かれているのか。
こうしたことを確認するための、大切な書類です。

ちなみに、今回の女性は契約書を受け取っていませんでした。
契約書が渡されていない場合などは、8日を過ぎてもクーリング・オフできることがあります。
「もう何日も経っているから……」
と、自分だけで諦めないでくださいね。


今回の「ちょっと待って!」

訪問購入で品物を売るときは、ぜひ次のことを思い出してください。

  • 迷っている品物は、売らない。 特に形見や思い出の品は、金額だけでは決められません。
  • 契約書を必ず確認する。 品物の種類、特徴、数量、金額などが正しく記載されているか確かめましょう。
  • すぐに渡さなくてもよい制度を知っておく。 法律の対象となる訪問購入なら、クーリング・オフ期間中は品物の引渡しを拒めます。
  • 「もう転売した」と言われても諦めない。 返還や契約解除について、専門の相談窓口で確認しましょう。

困ったときは、消費者ホットライン 188(いやや!) へ。

お住まいの地域の消費生活相談窓口につながります。


🌸今回のまとめ

売る契約をしても、すぐに品物を渡さなくてよい場合があります。

「転売した」と言われても、契約を解除する権利が消えるとは限りません。

大切な品物ほど、手放す前に考える時間を持ちましょう。

編集後記

今回の指輪が、どれほど高価なものだったのかは分かりません。
でも、「形見」という言葉には、お金では測れない重みがあります。
古い指輪でも、傷のついた指輪でも。
そこに残る思い出は、同じものを買い直せば戻ってくる、というものではありません。

物を手放すかどうかは、自分で決めていい。
そして、その答えを出すための時間も、大切にしてほしいのです。


🌸次回予告

最近、家族葬のCMってすごく多いですよね。
「家族葬なら、費用も抑えられるはず」
そんなイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

ところが、広告で見た金額と、実際に支払う金額が違っていたら……?

次回は、葬儀費用をめぐるトラブルと、契約前に確認しておきたいポイントを取り上げます。

「安いと思っていたのに、どうして?」
その疑問を、一緒に考えていきましょう。🌸

第三章「大切なものを守るために」

―葬儀費用編―

近日公開します。


参考資料・情報源

・国民生活センター(2017年9月7日公表)
「不用品を買い取ると言ったのに貴金属を買い取られた!!―終活の一環!?高齢者を中心に訪問購入のトラブルが発生しています―」
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20170907_1.html

・消費者庁「特定商取引法ガイド 訪問購入」
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/doortodoorpurchases/

※実際の相談内容と、法律を説明するための仮定の事例は区別して記載しています。